秩父・長瀞巡検観察ポイント

観察ポイント

1.親鼻橋下

親鼻駅からしばらく荒川沿いに歩き、右岸の町営住宅脇の小路を降りると天然記念物の紅簾石石英片岩の露頭に出ます。ここは、明治21年小藤(ことう)文次郎博士により、はじめて研究・報告されたところです。現在の荒川河面から12mほど高い位置にあります。この露頭は岩石を採集することはもちろん、傷つけることもできないので注意してください。紅色の鉱物が紅簾石です。この露頭には、直径1m以上もある大きな穴(ポットホール(おう穴))があいています。

露頭上面にあるポットホール(おう穴)。

紅簾石石英片岩の露頭表面。淡紅色のきれいな結晶片岩です。紅簾石が厚さ1~3mmの層状に密集した部分と、石英・曹長石・方解石の密集した部分とが互層しています。このほかに白雲母が見られます。また、特に紅簾石石英片岩は緑色片岩との組み合わせで出現することから、鍵層として有効です。紅簾石はマンガンを多く含んでいて、原岩としてはマンガンを含むチャート等が考えられます。(長瀞の自然より引用)

紅簾石石英片岩の露頭から荒川上流を望む。右岸は攻撃斜面で急峻な崖になっており、左岸は滑走斜面で河川により浸食された岩石が堆積していいます。

紅簾石石英片岩の露頭から左岸の緑色片岩を望む。緑色片岩は緑色で片理面がよく発達しています。白色の直径2~3mmに達する曹長石の点紋をもつものと、もたないものがあります。一般的に、緑泥石・緑簾石・アクチノ閃石・曹長石が含まれ、ほかに石英・白雲母・方解石が含まれることがあります。微量成分としては、磁鉄鉱・スフェン等があります。原岩は、塩基性溶岩または塩基性凝灰岩であると考えられます。(長瀞の自然より引用)

紅簾石石英片岩の露頭の下流側には小さな沢があり、そこを境にして橋側には緑色片岩が露出しています。この紅簾石石英片岩と緑色片岩の間には大きな断層(赤線)が入っています。

2.埼玉県立自然の博物館下河原の観察

埼玉県立自然の博物館から宮沢賢治の碑を過ぎ去り河原に下りると、ここでは荒川が北に大きく屈曲しており、対岸は浸食のために切り立った崖(攻撃斜面)となり、こちら岸は広々とした河原(滑走斜面)になっています。また、この付近の上流の河原には、荒川の屈曲の内側のため、流速が小さくなり多くの礫が堆積しています。
撮影したのは2016年9月27日ですが、生えている木々が下流側へ一定方向に倒木しており、おそらく9月に多数発生した台風の影響で荒川が増水したことが影響していると考えられます。
虎岩は褐色の部分がスチルプノメレン、白色の部分が石英や曹長石(そうちょうせき)からできており、全体が縞模様として見えるのです。このような岩石をスチルプノメレン片岩(脆(ぜい)雲母(うんも)片岩ともいう)といい、鉄分を多く含むため、糸につるした小さな磁石が吸いつきます。また、黄鉄鉱の結晶がたくさん生じている部分もあります。虎岩全体は、折りたたまれるように褶曲状の形態を示しながら、多数の断層や節理によって細分化されています。これらは、変成岩の形成時に生じたもので、規模の大きいものは、土がはさまってたり、草が生えているのでよくわかると思います。断層や節理の方向を調べると荒川の流れの方向と同じことが分かります。 さらにこの地域には多くの石英脈群が確認できます。石英脈は、幅数cmほどの平行石英派群や、カギ型・ミ型・S字型などに変形したエシュロン(雁行(がんこう)状石英脈)が発達しており、この地域に大きな応力が加わったと考えられています。
茶褐色の縞模様が見える大きな結晶片岩体は、通称「虎岩」と呼ばれています。ここには虎岩だけでなく、上流側の深緑色の緑色片岩(緑泥石)片岩、黄緑色の緑簾片岩、そして対岸の黒色の石墨片岩などがあります。

虎岩は褐色の部分が直径2~3mmのスチルプノメレン、白色の部分が石英や曹長石の互層からできており、全体が縞模様として見えます。このような岩石をスチルプノメレン片岩(脆(ぜい)雲母(うんも)片岩ともいう)といい、鉄分を多く含むため糸につるした小さな磁石が吸いつきます。

虎岩を観察すると、スチルプノメレン片岩と緑色片岩が互層となり、褶曲しているものを見つけることができるます。

黄鉄鉱の結晶がたくさん生じている部分を見つけることができます。

直径5mmの黄鉄鉱の結晶。

地層は荒川河面方向へ傾斜しています。


3.埼玉県立自然の博物館

虎岩から養浩亭のわきをぬけて上へあがり、二階建て赤レンガ造りの建物が埼玉県立自然の博物館です。入館すると、最初のオリエンテーションホールでは、1200万年前の巨大古代ザメ(カルカロドン=メガロドン)のアゴと生体の復元、3体の絶滅した海獣パレオパラドキシアの復元骨格が見られます。次の地学展示ホールでは、3億年におよぶ埼玉の大地の生いたちが、地層・岩石・鉱物・化石標本や地質時代のジオラマによって年代順に紹介され、岩石にはさわることもできます。さらに生物展示ホールでは、冬の雑木林・夏のアカマツ林・秋のブナ林・初夏のコメツガ林の大ジオラマと鍾乳洞で、埼玉の動・植物とその生育環境を紹介しています。また2階展示ホールでは、埼玉の動物・植物・地質に関する特別展や、夏休みの学習支援展示などが行われます。


長瀞をはじめ秩父地域は、地質学の研究が古くから盛んにおこなわれていたところです。明治11(1878)年、ナウマン博士が調査して以来、多くの研究が行われてきました。また、地質学を学ぶ上で最適の場所であり、今も昔も多くの学生が訪れています。

巨大古代ザメ(カルカロドン=メガロドン)の復元模型。

巨大古代ザメ(カルカロドン=メガロドン)のあごの復元模型。

アケボノゾウの復元模型。

4.岩畳へ向かう遊歩道

上長静から荒川左岸段丘面沿いに、林の中をぬうように遊歩道が整備されています。結晶片岩の岩相変化や断層・節理の発達と川の流路などに注意してください。歩き始めて間もなく、前方に「石割りの松」が見えます。緑色片岩上にしっかりと根をおろし、割れ目(節理)に入り込んでいる根が岩石を押し広げています。やがて前方に岩畳が広がるところで、川幅が狭くなり流れも速くなります。「小滝の瀬」といわれているところです。


小滝の瀬では、川の流れによって石がドミノ倒しのように一定方向に倒れている光景を見りうことがでいます。

5.岩畳~四十八沼とポットホール

岩畳は国の名勝・天然記念物に指定されているので、岩石を割ったり持ち帰ったりしないようにしましょう。また岩畳の上は、たいへんすべりやすいので、注意して歩いてください。岩畳はほぼ平らですが、地質学的には結晶片岩の「片理面」、地形学的には「段丘面」といい、昔の川底になります。岩畳の西端には、一段低くなったところへ水たまりが点在しています。土地の人は、これを「四十八沼」と呼んでいますが、実は昔の川筋の跡なのです。きっと昔の荒川は、この岩畳の上で蛇行しながら流れていたのでしょう。その後、土地の隆起と川の浸食作用で、現在の水面に下がったのでしょう。岩畳にはポットホール(おう穴)が多数存在していることからかつて川底だったことが分かります。

小滝の瀬から岩畳に入るとすぐ、黒色片岩の露頭が観察できます。

黒色片岩は黒色で片理面がよく発達します。しかし、風化して炭質物が剥奪して白っぽくなり白雲母の絹状光沢が目立ってきます。顕微鏡下では、厚さ0.2~1mm単位で炭質物の多い部分と、石英・曹長石・白雲母の多い部分とが互層します。微量成分としては鉄鉱物・方解石が含まれます。原岩としては、粘板岩や砂岩が考えられます。(長瀞の自然史より引用)


黒色片岩内に見られる発達した片理面。片理面とは、鉱物が配列方向に薄く割れる性質のことです。片岩など低温高圧型の広域変成岩は、再結晶作用によってできた板状、短柱状などの鉱物が圧力に直交する方向に並び、特に絹雲母、石墨など軟らかい鉱物が集ると、そこにできる面からはげやすくなります。

片理面を直行方向から見た様子。


何か所かの崖の途中から、細い滝が落ちています。これはもともと荒川本流に合流していた川が、浸食力の差により滝となったもので、「懸谷(けんこく)」と呼ばれています。左が男滝、右が女滝と呼ばれています。

高さ約50m、長さ約500mにおよぶ断崖絶壁は「秩父赤壁(せきへき)」と呼ばれ、中国の湖北省を流れる揚子江(ようすこう)が刻んだ「赤壁」にちなみ、夕日に赤く映える光景から名付けられました。この崖はほぼ垂直に走った岩盤の割れ目で、江戸時代は交通の難所で井戸破崩(はぐれ:崩れやすく危険な場所)と言われていました。人や馬がよく落ちたため、明治14(1881)年から2年の歳月をかけて開削されました。この道は現在、遊歩道「長瀞自然の道」となっています。ここでは、荒川もほぼ真北に流れており、この付近をおおよそ南北方向の「赤壁断層」が通っているともいわれています。

キンクとは”よじれる”とか”ねじれる”を意味し、片理面などの多層構造が屏風のように折れ曲がり、ステップ状に変形した部分を、「キンクバンド」と呼んでいます。キンクバンドは、断面携帯から「正キンク」と「逆キンク」とに分けられ、それぞれ、層面に平行な引っ張り力と圧縮力などにより形成されます。形成環境としては、褶曲と断層の中間的な深度が考えられ、「キンク褶曲」と呼ぶ場合もあります。
太陽光線の当たり方や見る方向によって、よく見える方向と見えない方向とがあります。黒色片岩中のものは比較的直線的に伸びるものが多いが、緑色片岩中のものが曲線的にのびるものが多いです。


キンクバンドと同方向に延びる石英脈。この地域一帯の変成方向も同一方向。

11.白鳥島

岩畳の北端、長瀞駅に向かう石段の近くまで行くと、対岸に白鳥島があります。これは、荒川の流路の変遷にともなって、取り残された結晶片岩体です。ところどころ縞状に見えますが、全体的に石英が多いために白っぽく見えます。この白鳥島の左端のほうを注意深く観察しましょう。対岸からですと見にくいかもしれませんが、縞状の構造がつぶれた逆S字型の模様が観察できます。このように地層が曲げられているのを横臥(おうが)摺曲といいます。しかし、現在は横臥(おうが)摺曲をみることができる場所までの道は閉ざされており確認することができなくなっています。